2024/11/15
企業様インタビュー【前編】「誰もが生きやすい社会づくり」に向けて。地域課題に挑戦し続ける想いとは|社会福祉法人くるみ様
高校生までは福祉分野との接点がほとんどなかったという社会福祉法人くるみの岡本理事長。
福祉分野に足を踏み入れたのは、友人の一言がきっかけでした。
その後福祉分野に進み、どのような想いで法人を立ち上げたのか。
多様な個性を受け入れ、誰もが生きやすい社会にするためのくるみの取り組みとは。
今回は2回にわたって岡本理事長の想いに迫ります。
<企業紹介>
富山県高岡市にある社会福祉法人。支援の必要な方の豊かな一生をサポートすることを目的に設立。
こどもから大人までライフサイクルに応じた「育つ・出会う・経験する・働く・暮らす」をサポートしながら、必要な「サービス・人・しくみ・地域・価値」をつくり、共生社会の実現を目指しています。
3拠点ある施設は、白や木目を基調とした開放的な空間で、良い意味で「福祉施設らしさ」のない設計となっています。
<岡本久子氏 プロフィール>
社会福祉法人くるみ・理事長。
金沢大学を卒業後、入所施設職員として勤務ののち3つの福祉分野NPOの立ち上げに関わり、2013年11月に社会福祉法人くるみを設立。
趣味は読書と旅行。面白いと思ったものはまず見てみる・聞いてみるタイプ。
共生と居場所づくりのために
起業からくるみ設立までの歩み
— まずは、岡本様が福祉分野に進まれることになったきっかけを教えてくださいますか?
岡本理事長
元々福祉分野に進もうとは全く思っておらず、たまたま高3の時に友人から「こういう分野があるらしいよ」と教えてもらったことがきっかけです。
その時までは何となく教員になろうかなと思っていたのですが、普通の教員は少し違うなと思っていて。
それまでは全く知らない分野でしたし、周りに障害を持つ方もいなかったのですが、その一言がきっかけで特別支援教育分野に興味を持ちました。
何がきっかけになるか分からないというのが面白いですね。
山本
岡本理事長
高校卒業後、金沢大学の教育学部に進みました。大学では教育分野の先生と福祉分野の先生、それぞれから話を聞く機会があり、やはり自分は指導ではなく一緒に寄り添いながら歩んでいく共生の方が向いていると思ったことも、福祉分野に進んだきっかけです。
その頃全国で未知の障害と言われていた自閉症の方に向けた施設を作るという動きがあり、石川県でも新施設の立ち上げプロジェクトが始まりました。石川県の施設責任者の方が金沢大学出身だったということもあって、「母校で問題意識を持って学んでいる学生をスタッフに迎えたい」と、私を含め所属している研究室の半分程の学生がその施設の立ち上げ時にそこへ就職しました。
その時にだけまとめて採用されたということですね。
それもすごいご縁ですね。
山本
岡本理事長
その施設はすごくレベルが高い人たちの集まりで、私は落ちこぼれそうになりながらやっとついていった感じでした。
私は結婚してこどもができてもその仕事を続けたいと思っていたのですが、当時は宿直のある福祉施設ではこどものいる女性は働いておらず、なかなかその考えが受け入れられませんでした。
当時は、結婚・出産した女性は戦力にならないと公然と言われた時代でした。でも私は負けず嫌いな人間なので、出産しても絶対続けてやると思っていて、こどもが熱を出しても休まなかったんです。
そこまでする必要はないから辞めなさいという職場の雰囲気も感じていて、一方で私は仕事を続けたいと強く思っていたので本当に大変でした。
当時は今と随分状況が違いましたからね…。
山本
理念共感型組織へのこだわり
岡本理事長
仕事と子育ての両立に対して理解を得ることがこれ以上は難しいと思っていた頃、ちょうど高岡で新しい施設ができるということでそちらに転職しました。
転職前の施設は福祉に対する考え方が全国レベルだったので、そこでの経験や知識を活かし、施設の水準を引っ張り上げ、良い形に作り上げるという役割を担いました。
ところがちょうどその時期に国の方針で、施設ではなく在宅福祉に切り替えていこうという流れになっており、「在宅福祉で障害を持つお子さんがいるお母さんたちはこれから大変になる、地域に何か居場所を作る必要がある」と思いました。
その後、特定非営利活動促進法(NPO法)が施行されたため、そういう居場所をNPOで作ろうと仲間と最初のNPO法人を立ち上げました。私はどちらかというとリーダーを支える仕事が向いていると思っていたので、これまでに立ち上げた2つの法人の代表者は別の方にお願いしました。
でも組織って続けていくと最初の理念がどんどん薄れていってしまうのです。
大事にしたいと思っていたことや本来の目的とはズレてしまうことが自分の中で許せず、最後に責任を持って信念を貫けるような組織を作りたいと思い、2013年に自分が代表になってくるみを立ち上げました。
— くるみを立ち上げるときに、ここだけは譲れないと考えた部分はありますか?
岡本理事長
NPOを支援する団体の方に「とにかく理念はしっかり考えた方が良い」とアドバイスを受けたので、理念は時間をかけて考えました。
これまで他の施設やNPOでは理念通りにはいかないということを繰り返してきたので、最後ぐらいはしっかりこだわりたいという思いもありました。
自己犠牲はしない、でもできることを少しずつ広げ続ける
岡本理事長
福祉の仕事で理念や理想の話をすると、「綺麗ごとだけでやっていけるのか?」と言われることも多いです。
理想を追い求めるだけではなく現実的な課題を乗り越えるために、専門的な支援力や、プロとしての知識も共存していきたいです。
今、くるみが手掛けている福祉は主にこどもから大人まで、重度の障害を持つ方々向けなのですが、そこだけで十分ではないと思っています。
今年開所した3つ目の拠点・りすの森で始めたカフェ事業は一般市民向けの事業、不登校児支援は知的発達ボーダーラインのこどもたちが対象です。また夜間支援のグループホームもあり、なかなか運営が難しく、私もスタッフも悩みながら取り組んでいます。
でもそういうことに取り組んで力を付けて、いろいろな支援ができる組織に成長していきたいと考えています。
ある意味、茨の道だと分かって勇気を持って足を踏み入れようとされている、そのマインドはやはり理念に基づくところから来ているのですか?
山本
岡本理事長
そうですね。支援の必要な人を支えるのが私たちの理念なので。
制度でカバーできない人も支えたいと思っています。
ただ一方で、私達の力には限界があるとも思っていて、できる部分はやるけど、できない部分は無理してはやらない。
それはスタッフにもいつも話していて、自己犠牲まではしない、でもできることを少しでもやることが、次を広げることに繋がると思っています。
じりじりとできる範囲を広げる努力をされている感じですね。
チャレンジと成長の実感、そこから生まれる自己肯定感が成長欲求の源になりますよね。
山本
岡本理事長
福祉の現場は、仕事をしながら、利用者さんや保護者の方、地域の方との関係性の中で自分の役割を感じていくことができるものだと思っています。
福祉分野は、原理原則を学びチューニングしながら目の前の人に実践していく、という点でマネジメントに近いものがありますね。
山本
岡本理事長
そういう意味ではまさに、福祉の現場ではマネジメント能力が求められますね。
もう一つ重要なのはアセスメントです。
マネジメントする対象をよく知る、アセスメント能力は研修でしっかりと学ぶようにしています。
発達障害分野のアセスメント知識にも色々あって、くるみでも理系出身者のスタッフがその部分にアカデミックな面白さを感じているみたいです。
11/22(金)更新予定の後半では、くるみを通して「誰もが生きやすい社会づくり」を目指す岡本様にとっての「普通」や「幸せ」について、そして今後のくるみの方向性についても伺っていきます。
コンサルタント紹介
(くるみを担当)
北陸人材ネットは、社会福祉法人くるみ様の「採用・教育」パートナーとしてコンサルティングをさせていただいています。実際の研修事例(他社含)についてはこちらをご覧ください。
イベントレポート